横浜地方裁判所 昭和53年(行ウ)13号 判決 1979年9月19日
原告 日本ペンタ株式会社
被告 横須賀税務署長
訴訟代理人 竹内康尋 古俣与喜男 水庫信雄 酒井義昭 外三名
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告に対し、横須間特第三三号をもつて昭和五一年五月二八日付でした物品税決定処分(税額一〇五八万三四〇〇円)及び横須間特第三四号をもつて同日付でした物品税決定処分(税額五九四万円)は、いずれもこれを取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、スエーデン国エー・ビー・ボルボ・ペンタの製造にかかる舶用機器、産業機械及び関連機器の輸入及び輸出並びに国内販売、船舶の輸出入及び国内販売等を主たる目的とする会社である。
2 原告は、昭和四八年六月から昭和四九年六月までの間四回に亘り、訴外オリエンタルボート株式会社(横須賀市長瀬一丁目七〇三番地、以下「訴外会社」という。)に舶用エンジンを供給して大型モーターボートの製造を委託し、訴外会社が同社の本店所在地において製造したうえ、昭和四八年九月に移出した大型モーターボートであるふじ丸並びに同年一一月に移出した大型モーターボートであるスバル号及び名護丸を、また、訴外会社がサンケイ船舶株式会社に下請を依頼し、同社が三浦市三崎町諸磯一六二七番地において製造したうえ、昭和四九年七月に移出した大型モーターボートであるなんごく丸をいずれも購入して、これを沖繩県に向けて販売した。
3 被告は、右各大型モーターボート(以下「本件大型モーターボート」という。)につき、原告が物品税法七条一項にいう「第二種の物品の製造に必要な材料若しくは原料のうち主要なもの」を供給して当該物品の製造を委託した販売業者に当たり、物品税の納税義務者であるとして、原告に対し、昭和五一年五月二八日付横須間特第三三号をもつて、ふじ丸につき課税標準額を一四五二万円、税額を四三五万六〇〇〇円、スバル号及び名護丸につき課税標準額を二〇七五万八〇〇〇円、税額を六二二万七四〇〇円とする物品税決定処分をし、また、同日付横須間特第三四号をもつて、なんごく丸につき課税標準額を一九八〇万円、税額を五九四万円とする物品税決定処分をした。
4 そこで、原告は、右各決定処分(以下「本件処分」という。)を不服として、同年七月二七日被告に対し異議申立をしたところ、被告は、同年一〇月一八日付で異議申立を棄却する旨の決定をした。さらに、原告は、同年一一月一二日国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は、昭和五三年二月一八日付で審査請求を棄却する旨の裁決をし、右裁決書謄本は、同月二一日原告に送達された。
5 しかしながら、被告のなした本件処分は、いずれも納税義務者を誤つて課税した違法があり、その取消を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1ないし4の事実は認める。
2 同5の主張は争う。
三 被告の主張
1(一) いわゆる原材料の供給によるみなす製造者について規定した物品税法(昭和三七年法律第四八号。なお、条文の引用は、昭和四八年法律第二二号による改正後のものによる。)七条一項は、右昭和三七年法律第四八号による改正前の物品税法(昭和一五年法律第四〇号、以下「旧法」という。)六条三項と同一の立法趣旨に出たものであつて、いわゆる委託製造の場合において、受託者の製造した物品はこれを委託者が製造したもの、すなわち委託者を製造者とみなして委託者を納税義務者としようとするものである。
受託者は、事実上の製造者であるが、受託者のうちには委託者である販売業者から原料等の供給を受け、これを基に加工費だけで製造し、その製造した物品の処分権はもちろん、その規格、意匠等についてもすべて販売業者の指図によつて行なつているような者があり、右のような問屋生産方式をとつている場合には、課税物品の製造及び販売は販売業者(問屋)を中心として行なわれており、また、受託者は、一応独立した営業者であるとしても、物品税の徴税技術上からみた場合には、受託者を納税義務者とすることは徴税の万全を期することができないことも予想されるので、委託者である販売業者を納税義務者とすることにしたものである。そして、これを税務行政において具体的に実施する場合においては、すべての案件を画一的な標準によつて処理することにより税負担の公平と課税事務の敏速化をはかるため、その要件を定型化し、受託者の委託者に対する企業従属関係までも考慮することなく、その委託者たる販売業者を受託者の製造した物品の製造者とみなしてその物品税を負担せしめることとしたところに、右規定の立法趣旨が存するのである。
(二) そして、物品税法七条一項に規定する「第二種の物品の製造に必要な材料若しくは原料のうち主要なものを供給して」とは、その製造する第二種の物品の性状、機能、用途等についての重要な特性を与える当該第二種の物品の材料若しくは原料を提供することをいい、一の物品について、右の意味の材料若しくは原料が数種あるときは、その全部を供給する必要はなく、一種以上のものを供給すれば足りるものである。
(三) 同条項に規定する材料若しくは原料のうち主要なものに該当するか否かの判断に当つては、第一義的には、物品としての性状、機能、用途等に着目し、供給した原材料がこれに重要な特性を与えるものであればこれを主要な原材料と判断すべきものであつて、この場合の主要な原材料とは、当該第二種の物品にとつて最も重要なもの一種に限定されるものでもなければ、また、総価格又は総数量のうちに占める当該原材料の価格又は数量の比率に基づく判断を必要とするものでもないというべきである。すなわち、同条項の原材料の供給によるみなす製造者の規定の適用については、税負担の公平と課税事務の敏速化の見地から可及的に画一的な標準による処理が必要とされるところ、右の価格又は数量といつたものは、当該材質の良否、物件の大小あるいは経済変動等という主観的偶発的な不確定要因によつて多大な影響を受けざるを得ないという性質を内包するものであるから、これに基づく比較判断によるよりは、まず第一に、第二種の物品の性状、機能、用途等について重要な特性を与えるものであるか否かの特性判断により決せられるべきものなのである。
そして、右供給した原材料が重要な特性を与えるものであるか否かの認定が困難な事例の場合に限つて、第二義的に当該原材料の価格又は数量に着目して主要なものか否かを判断することが相当なのである。
(四) なお、物品税法基本通達(以下「本件通達」という。)二四条一項二号は、「第二種の物品の製造に必要な材料若しくは原料のうち主要なもの」とは、「その製造する第二種の物品の性状、機能、用途等についての重要な特性を与える当該第二種の物品の材料若しくは原料をいうのであるが、当該重要な特性を与えるものであるかどうかの認定が困難であるときは、その供給する材料若しくは原料の価格又は数量がその製造する第二種の物品の材料若しくは原料の総価格又は総数量の大部分(おおむね五〇パーセントを超えるものをいう。)を占めるときにおける当該材料又は原料をいうものとする。」と定めているが、右規定も右(二)、(三)と同趣旨に出たものということができる。
2(一) ところで、原告は、物品税法別表第二種八号1に掲げる大型モーターボートの販売業者であり、訴外会社に対し、大型モーターボートの製造に必要な材料である舶用エンジンを供給して大型モーターボートの製造を委託し、当該委託により本件大型モーターボートが製造されたものである。
(二) そして、本件大型モーターボートは、推進機関として内燃機関を備えた舟艇であつて、原告が供給した舶用エンジンが本件大型モーターボートの性状、機能、用途等について推進力という重要な特性を与える材料に該当することは明らかであり、従つて、原告は、大型モーターボートの製造に必要な材料のうち主要なものを供給して大型モーターボートの製造を委託したものとして物品税法七条一項の規定により本件大型モーターボートの製造者とみなされ、同法三条二項の規定により本件大型モーターボートに係る物品税の納税義務者となるものである。
3 仮に、原告が主張するように、第二種の物品の性状等に重要な特性を与える原材料が数種類ある場合にはそのうちのいずれか一種類に限定して主として重要であるかを決すべきものであるとの見地に立つたとしても、原告が訴外会社に供給した舶用エンジンは、本件大型モーターボートにとつてその性状、機能、用途等について推進力という最も重要な特性を与える材料であるから、同法七条一項にいう「主要なもの」に該当することは明らかである。
従つて、右舶用エンジンが、右モーターボートの艇体との価格の比較においてより低額であることの故に主要原材料に該当しないとする原告の主張は失当である。
四 被告の主張に対する認否
1 被告の主張1(一)の物品税法七条一項(旧法六条三項)の立法趣旨自体は争わない。しかし、これを本件に当てはめた場合、原告と訴外会社との関係は、被告のいわゆる問屋生産方式などとは全く似つかない関係である。
同1(二)及び(三)の主張は争う。
同1(四)のうち、本件通達二四条一項二号の規定は認める。
2 同2(一)の事実は認め、(二)の主張は争う。
3 同3の主張は争う。
五 原告の反論
1 「主要」なものとは、「主として重要」なもの、あるいは、「おもだつて重要」なものと解すべきことは字句の解釈からしても当然であるが、物品税法七条一項は、第二種の物品の製造に必要な材料若しくは原料のうち「主要」なものを供給して当該物品の製造を委託した者に限つてこれを製造者とみなし、これに納税義務を課しているのであるから、「重要」な特性を与える材料又は原料が数種あるときには、そのうちいずれが「主」であるかを比較考量したうえ「主要」であるか否かを決すべきことは、文理上も明白であつて、「重要」な特性を与えるものが数種あるときは、そのすべてが「主要」となるとする被告の主張は全く理由がない。
2 右のことは、物品税法の改正の経緯をみれば一層明白である。
(一) 旧法は、六条三項において「原料、労務、資金等」の供給によるみなし製造者に関する規定を設けていたが、同項の「原料、労務、資金等」には何らの限定も付せられていなかつたので、同項にいう原料の供給は、「当該物品の製造に必要なもので、その物品の性状、機能、用途等からみてこれに重要な特性を与えるものを提供することをいい、有償、無償を問わないが、一の物品について右の意味の原料が数種あるときは、必ずしもその全部を供給する必要はなく、一種以上のものを供給すれば足りる。」ものと解されていた(東京地判昭和四二年二月二二日行裁例集一八巻一、二合併号一二四頁)。このような解釈からすれば、旧法六条三項の労務又は資金の供給の場合には、その一部を提供したに過ぎないものも製造者とみなされることとなつたものと思われる。
(二) 物品税法七条一項は、旧法六条三項と異なり、原材料についてはそのうち「主要」なものを、資金若しくは労務については「全部若しくは大部分」を供給することをみなし製造者の要件としている。
そして、資金若しくは労務の場合には、供給した資金若しくは労務が量的に少くとも過半数を越える場合でなければ製造者とみなすことにはしていないこと、換言すれば、資金若しくは労務の供給の場合には相互の比較考量によつて製造者とみなされる者が単一となるよう規定されていることとの権衡上からしても、物品税法七条一項にいう原材料の供給がみなし製造者に当たるためには、旧法六条三項の場合と異つて、その重要なものの一部を供給するだけでは足りず、それが重要なもののうちの「主」たる場合に当るのでなければならないことはいうまでもない。
(三) 被告の主張する物品税法七条一項の原材料の供給に関する解釈は、旧法六条三項の原料の供給に関する解釈と全く軌を一にしているのであるが、物品税法の改正の経緯からみれば、同法七条一項が原材料のうち「主」として重要なものを供給した場合に限つて製造者とみなすことにしたものであることは明白であつて、法の改正にも拘わらず、原材料の供給によるみなし製造者の解釈は改正前と全く同一であるとする被告の主張の理由のないことは極めて明白である。
3 また、物品税法が、同一物品に対する二重課税を許さないものであることはいうまでもない。
同法七条一項が「第二種の物品の製造に必要な材料若しくは原料のうち主要なもの」と規定したのも、当該材料若しくは原料のうち「主要」なものを供給して当該物品の製造を委託した者に限つてこれを製造者とみなし、納税義務を課することにしたに過ぎないのであつて、材料若しくは原料を供給した者すべてに対し納税義務を課したものでないことは明白である。本件通達にいう「重要な特性」も「主要なもの」であるか否かの判断の基準を示したに過ぎないものであるから、被告のいうように「重要な特性」を与える材料若しくは原料が数種あるときには、そのいずれがより重要な特性を与えるものであるか、換言すれば、そのいずれが主要なものであるかの比較考量をしたうえ、同法七条一項の適用の有無を決しなければならないことはいうまでもない。従つて、右通達の趣旨は、唯一の重要な特性によつて「主要なもの」と認定できる場合にはそれにより、そうではない場合にはこのような比較考量によつてより重要な特性を認定し、それもできない場合には認定が困難なものとして原材料の総価格又は総数量に占める比率によつて「主要なもの」であるか否かを決すべきことを示したものと解すべきものなのである。けだし、若し右通達の趣旨をこのように解さず、被告の主張するように、何らの比較考量なしに「重要な特性」即ち「主要なもの」として、重要な特性を与えるものが数種あるときにはそのうち一種のものを供給しても同法七条一項が適用されるとすれば、数種のうち一種の原材料を供給した者はすべて納税義務を負うことになるのであつて、二重課税を許さない法の根本精神は没却されることになるからである。
4 物品税法は、旧法と異なり、申告納税を原則とするものである(旧法の課税標準額申告書は税務署長が賦課をするための資料として提出されたものである。)。「重要な特性」を有する原材料を供給して製造を委託する者であつても、それが「主要なもの」に当たらない場合には、誰が自分に納税義務が課せられ、申告義務が生ずると考えるであろうか。本件大型モーターボートと同類、同号、同品目番号によつて物品税を課せられる大型ヨツトに例をとつていえば、大型ヨツトに必要不可欠であり重要な特性を与える材料であるヨツトの帆布を供給してその価格の数倍ないしは数十倍の価格を有する艇体の製造を委託した場合、誰が自分に納税義務が課せられ、申告義務が生ずると考えるであろうか。被告の主張は、一般の法律常識を超えるばかりでなく、法律解釈の枠を逸脱するものであつて、到底許されるべきものではない。
5 しかして、大型モーターボートの走行上、舶用エンジンと艇体とは、ともに必要不可欠なものであつて、そのいずれを欠いても大型モーターボートとして成り立たないものである。すなわち、舶用エンジンだけあつても艇体がなければ大型モーターボートとしての機能を発揮することができず、また、艇体だけあつても舶用エンジンがなければ大型モーターボートとしての機能を発揮することができないのである。従つて、舶用エンジンと艇体の両者の機能を比較しただけでは、そのいずれが大型モーターボートの性状、機能、用途等についてのより重要な特性を与える材料若しくは原料に当たるとも決し得ないことは極めて明白である。このことは、物品税法が本件舶用エンジンに当たる舟艇用の舶内外機関と大型モーターボートの艇体の双方を課税客体としていることからも窺われるところであつて、両者が結合して一隻の大型モーターボートになつたからといつて、両者の機能に差異が生ずるものではない。
従つて、原告が支給した舶用エンジンと訴外会社が製造した艇体のいずれを本件大型モーターボートの製造に必要な材料若しくは原料のうち主要なものと解すべきかは価格の比較によつて決定しなければならないのであるが、原告が訴外会社に支給した舶用エンジンと同社が製造した艇体の価格の比較は左記のとおりであつて、いずれも艇体の価格が艇体と舶用エンジンの価格の合計額の五〇パーセントに相当する額を超えているのであるから、本件に物品税法七条一項を適用する余地はなく、原告が「第二種の物品の製造に必要な材料若しくは原料のうち主要なもの」を供給して大型モーターボートの製造を委託した販売業者に当たらないことは、極めて明白である。
記
船名 舶用エンジンの価格 艇体の価格
ふじ丸 三五三万五〇〇〇円 七六五万〇〇〇〇円
スバル号 三五三万五〇〇〇円 七六五万〇〇〇〇円
名護丸 一八〇万〇〇〇〇円 二七〇万〇〇〇〇円
なんごく丸 四四一万〇〇〇〇円 一〇四七万九〇〇〇円
六 原告の反論に対する被告の主張
1 原告の反論1に対し
原告は、「主要」なものとは「主として重要なもの」あるいは「おもだつて重要なもの」と解すべきであるから、そのうちの最も重要なもの一つに限定されなければならないと主張する。
しかしながら、一般に「主要」なる字句を付した用語は多く存するところ、右「主要」なる字句が付されたからといつて、必ずしも最も重要な特定の一つのものに限定されるものでないことは、
(一) 証券取引法一八九条一項でいう「主要株主」とは「自己又は他人(仮設人を含む。)の名義を以て発行済株式の総数又は出資の総額の百分の十以上の株式又は出資を有している株主又は出資者をいう。」とされ、
(二) 食糧管理法において「主要食糧」とは米穀、大麦、裸麦、小麦その他政令を以て定める食糧をいうとされ(同法二条)、
(三) また、「主要材料費(原料費)」とは「主として製品の生産に際して直接消費され、製品の物体を形成してその構成部分となり、原価構成上重要な地位を占めるものをいう。」とし、ビール醸造業における麦芽・ホツプ・砕米、鉄鋼業における銑鉄・屑鉄・鋼塊・鋼片などのように複数の物品が主要材料費の事例としてあげられている(原価計算辞典四三七頁中央経済社)
などの例からも明らかなところである。
2 原告の反論2に対し
(一) 材料若しくは原料の供給によるみなす製造者の規定に関する物品税法の改正は、実質的な内容の変更を伴うものではなく、単に適切な表現に改めたにすぎないものであつて、原告の主張は失当である。
すなわち、旧法六条三項は「原料、労務、資金等ヲ供給シテ」と規定していたが、右にいう原料の供給の意義については、同条項の立法趣旨を考慮して製造を委託した第二種若しくは第三種の物品の製造の用に供する原料若しくは材料の全部又は当該物品の数量に見合う主要原材料若しくは主要部分品を提供すること、すなわち、原材料の範囲は、全部又は主要なものと限定的に解されていたところ、原告主張の東京地裁昭和四二年二月二二日判決においても、旧法六条三項における原料の供給の意義について、「当該物品の製造に必要なもので、その物品の性状、機能、用途等からみてこれに重要な特性を与えるものを提供することを」いう旨限定的に解されるとともに、「一の物品について右の意味の原料が数種あるときは、必らずしもその全部を供給する必要はなく、一種以上のものを供給すれば足りると解するのが相当である」旨判示して右条項の解釈を明らかにしている。
ところで、物品税法七条一項は、その立法趣旨にかんがみて、「第二種の物品の製造に必要な材料若しくは原料のうち主要なもの」と明確に規定し、原材料のうちの主要なものに限定したが、右の改正は、前述したところから明らかなように、旧法六条三項の規定の解釈に基づき、より適切な表現に改めたにすぎないものであつて、実質的な内容の変更を伴うものではない。
(二) なお、原告は、資金若しくは労務を供給した場合との権衡を理由に主要原材料は主たる一種に限定されるべき旨主張する。
しかしながら、物品税法七条一項は、材料若しくは原料の場合には「主要なもの」と、資金若しくは労務の場合には「全部若しくは大部分」と、それぞれ別異の適用要件を規定しているのであつて、原告主張のように主要原材料の意義を決するにつき、資金若しくは労務の場合との権衡を考慮に入れる必要は全く存しない。従つて、両者を同一視し、主要原材料の場合においてもこれを主たる一種に限定すべきとする原告の主張は失当である。
3 原告の反論3に対し
原告は、一個の物品に対して二重に課税する結果になるというが、そのようなことはありえない。
すなわち、物品税法七条一項が規定する要件は、「第二種の物品の製造者又は販売業者が」、「第二種の物品の製造に必要な材料若しくは原料のうち主要なものを供給して」、「当該物品の製造を委託した」事実があるとき、はじめて製造したものとみなすものであるところ、第二種の物品の製造者又は販売業者数名がそれぞれ第二種の物品の製造に必要な材料若しくは原料のうち主要なものを供給して、共同して当該物品の製造を委託する場合以外には、一個の物品について複数の者が製造委託することはあり得ないから、二重課税の問題が発生する余地がなく、右共同による製造委託の場合には、当該委託により製造した第二種の物品に係る物品税については、当該数名の委託者が連帯して納税義務を負うものであつて(国税通則法九条)、これまた二重課税の問題など発生する余地はない。
4 原告の反論4に対し
物品税法は、旧法と異なり申告納税を原則としているところ、第二種の物品の製造者又は販売業者が、第二種の物品の製造に必要な材料若しくは原料を供給して当該物品の製造を委託する場合において、当該委託の方法、内容及び当該物品の性状、機能、用途等に関しては、当該委託をする第二種の物品の製造者又は販売業者が他の誰よりもこれを最もよく知悉している立場にあるから、原告が主張するように納税義務及び申告義務に関して不明な点又は疑問とする点が存するときには、当該委託をする者が自らこれらの点を行政庁に対して照会し、納税義務の有無その他法の取扱い等を確認さえすれば、容易に適正な納税申告等の手続を行なうことができるものである。
5 原告の反論5に対する認否
原告の反論5のうち、大型モーターボートの走行上、舶用エンジンと艇体とはともに必要不可欠なもので、そのいずれを欠いても大型モーターボートとして成立しないものであること、そして、舶用エンジンだけあつても艇体がなければその機能を発揮することができず、また、艇体だけあつても舶用エンジンがなければその機能を発揮することができないこと、舶用エンジンと艇体はいずれもが大型モーターボートの性状、機能、用途等について重要な特性を与える材料若しくは原料に当たること、物品税法が本件舶用エンジンに当たる舟艇用の船内外機関と大型モーターボートの艇体の双方を課税客体としていること、ふじ丸、スバル号、名護丸の各舶用エンジンの価格及び艇体の価格、なんごく丸の艇体の価格は認め、なんごく丸の舶用エンジンの価格は不知、その余の主張は争う。
第三証拠<省略>
理由
一 請求原因1ないし4の事実及び被告の主張2(一)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。
二 そこで、原告が本件大型モーターボートに係る物品税について物品税法七条一項の規定によりみなす製造者として納税義務を負うものであるか否かについて判断する。
1 いわゆる原材料、労務、資金(以下「原材料等」という。)の供給によるみなす製造者に関して、物品税法の規定をみると、旧法六条三項が「第二種又ハ第三種ノ物品ノ販売ヲ業トスル者ニシテ原料、労務、資金等ヲ供給シテ第二種若ハ第三種ノ物品ノ製造ヲ委託シ………(タ)モノハ之ヲ受託者………ノ製造シタル物品ノ製造者ト看做シ当該物品ハ之ヲ委託者ノ製造シタルモノト看做ス」と規定していたのに対し、物品税法七条一項は、「第二種の物品の製造者又は販売業者が、第二種の物品の製造に必要な材料若しくは原料のうち主要なもの若しくは当該物品の製造に必要な資金若しくは労務の全部若しくは大部分を供給して当該物品の製造を委託し………(た)場合には、当該委託………をした者が当該委託を受けた者の製造した物品で当該委託………に係るものを製造したものとみなす。」と規定している。
右各規定は、いずれも、原材料等の供給を伴う委託製造については、委託者を受託者が製造した物品の製造者とみなすことにより、委託者を当該物品に係る物品税の納税義務者とするものであつて、その立法趣旨とするところは、原材料等の供給を受けて物品の製造を委託された受託者は、一般的には零細な企業者が多く、委託者から製品の規格、意匠等についての指示を受けて製造する場合が一般的であり、しかも、その製造した物品について自由に処分することができず、そのため取引価格も委託者の指示どおりになり、経済的には委託者に支配されている関係にある実情に鑑みれば、受託者よりも、むしろ委託者を製造者と同視する方が妥当であり、これを納税義務者とすることにより、零細企業者の保護及び税負担の適正化をはかるところにあるということができる。そして、これを税務行政の上で具体的に実施する段階においては、すべての案件を画一的な標準によつて処理することにより、税負担の公平と徴税事務の敏速化をはかる必要があるため、右各規定は、その要件を定型化し、右要件を満す以上当該委託製造における事実上の支配関係の有無について考慮することを要しないとしたのである。
2 右にみたとおり、物品税法七条一項は、みなす製造者の要件として委託者が供給すべき原材料等について、旧法六条三項が単に「原料、労務、資金等ヲ供給シテ」としていた内容をより明確に規定し、「第二種の物品の製造に必要な」材料若しくは原料についてはそのうち、「主要なもの」を、資金若しくは労務についてはその「全部若しくは大部分」を供給した場合としている。このように、原材料等をどの程度供給した場合に委託者が製造者とみなされるかについて、物品税法七条一項が資金、労務については「全部若しくは大部分」と規定し、比率的に少なくともその過半数を超える場合としているのに対し、原材料については「主要なもの」と規定し、ことさらに「全部若しくは大部分」とせず、委託者の供給に係る原材料が当該物品の原材料の総価格や総数量に占める比率においてその過半数を超える場合に限定しなかつた趣旨は、供給される原材料が「全部若しくは大部分」である場合、すなわち、比率において過半数を超える場合は、資金、労務の場合と同様、この程度の供給があれば委託者が受託者を支配し、社会観念上委託者自らが当該物品を製造したと同視し得る関係にあるとみうるとし、さらに、右比率が過半数に達しない場合であつても、販売業者等が委託に当たつて供給する原材料が当該物品の性状、機能、用途等について重要な特性を与えるものである場合には、かような原材料の発揮する重要な特性を当該物品に付与することによつて、委託者が受託者を支配し、社会観念上、委託者自らが当該物品を製造したと同視しても不合理ではないとみうることによるものと解される。
そうすると、物品税法七条一項に規定する「第二種の物品に必要な材料若しくは原料のうち主要なものを供給して」とは、その供給する材料若しくは原料の価格又は数量がその製造する第二種の物品の材料若しくは原料の総価格又は総数量に占める割合の多少にかかわらず、その製造する第二種の物品の性状、機能、用途等について重要な特性を与える当該第二種の物品の材料若しくは原料を提供することをいうものと解すべく、一の物品について、右重要な特性を与える材料若しくは原料が数種あるときはその全部を供給する必要はなく、一種以上のものを供給することをもつて足り、重要な特性を与えるもののうちの「主」たる一種に限る必要はないと解するのが相当である。
3 なお、原告は、「主要なもの」とは、重要な特性を与える原材料が数種あるときは、そのうちいずれが「主」であるかを比較考量したうえ主たる一種に限るべき旨主張する。
しかしながら、物品税法七条一項が規定する右「主要なもの」との文言が当然に原告主張のように解釈されるべきであるとはいい難いうえ、同条項が「主要なもの」と規定し、比率的にみて過半数を超えることを要件としていない趣旨が、前示のとおり、委託者が重要な特性を与える原材料を受託者に供給することによつて委託者が受託者を支配し、委託者自らが製造したと同視し得る関係にあるといいうるところにあることに照らせば、重要な特性を与える原材料が数種ある場合、原告主張のように、資金、労務における基準との権衡から、そのうちの「主」たる一種に限らなければならないという必然性はないというべきである。
そして、原告主張に係る資金、労務における基準との権衡を考えるべき場合とは、むしろ、委託者の供給に係る原材料が重要な特性を与えるものでない場合又は重要な特性を与えるものであるか否かの認定が困難である場合においてであつて、かような場合には、前示のとおり、その供給する原材料の価格又は数量が当該物品の原材料の総価格又は総数量の少なくとも過半数を占める場合に、その原材料が「主要なもの」に該当するといえるであろう。
4 また、原告は、重要な特性を与える原材料が数種ある場合、そのうち一種の原材料を供給すれば足りると解すると、数種のうち一種の原材料を供給した者はすべて納税義務を負うことになり、二重課税になると主張する。
しかしながら、物品税法七条一項により納税義務を負う製造者とみなされる要件は、第二種の物品の製造者又は販売業者であつて、かつ、その者が第二種の物品の製造に必要な材料若しくは原料のうち主要なものを供給し、当該物品の製造を委託した場合にかぎられるのであるから、原告の主張に係る「原材料を供給した者すべて」という意味が、当該物品の製造を委託した者以外の者も含むとする趣旨であれば、右の「製造を委託した場合」という要件を欠き主張自体失当であるし、また、当該物品の製造を委託した者のすべてという趣旨であるとしても、一個の物品について複数の者が製造委託することは、共同して当該物品の製造を委託する場合以外は通常ありえないから、二重課税の問題が発生する余地はないし、右共同して製造委託する場合は、共同委託者全員が不可分的に製造委託をしたものとして、そのうちの一名が重要な特性を与える原材料を供給すれば、他の共同委託者において原材料を供給するか否かにかかわらず、共同委託者全員が製造者とみなされる法律関係にあると解すべきであるし、かような共同委託者は連帯して納税義務を負うものであるから(国税通則法九条参照)、二重課税の問題が生じる余地はない(なお、例外的に、数名の委託者が別個に物品の製造を同一人に委託し、受託者がそれぞれ物品を製造すべきところ、受託者において供給された原材料を使用して一個の物品を製造した場合が考えられなくもないが、かような問題は、供給されるものが重要な特性を与える原材料の場合のみに限らず、原材料、労務、資金等の間においても起こりうる問題であつて、原告主張のように解さなければならない根拠とはなし得ない。しかも、この場合でも、原材料等の供給をした委託者全員が製造者となるのではなく、まず、当該製造された物品がいずれの委託者の製造委託に係るものかを判断し、当該物品の委託者と認められる者一名のみが製造者とみなされるものと解すべきであるから、いずれの場合も二重課税の問題は生じないというべきである。)。
5 前記のとおり、原告が物品税法別表第二種八号1に掲げる大型モーターボートの販売業者であり、訴外会社に対し大型モーターボートの製造に必要な材料である舶用エンジンを供給して大型モーターボートの製造を委託し、当該委託により本件大型モーターボートが製造されたことは、当事者間に争いがなく、さらに、大型モーターボートの走行上舶用エンジンと艇体とはともに必要不可欠なもので、そのいずれを欠いても大型モーターボートとして成立しないものであること、すなわち、舶用エンジンだけあつても艇体がなければその機能を発揮することができず、また、艇体だけあつても舶用エンジンがなければその機能を発揮することができないこと及び舶用エンジンと艇体はいずれもが大型モーターボートの性状、機能、用途等について重要な特性を与える材料に当たることは、いずれも当事者間に争いがない。
そうすると、原告が訴外会社に対して供給した舶用エンジンが本件大型モーターボートの性状、機能、用途等について、本件大型モーターボートの艇体と比較してより重要な特性を与えるものであるか否かの判断をするまでもなく、原告が訴外会社に対して供給した舶用エンジンが本件大型モーターボートの性状、機能、用途等について推進力という重要な特性を与える材料に該当することは原告の認めるところであるから、原告は、大型モーターボートの販売業者として、その製造に必要な材料のうち主要なものを供給して大型モーターボートの製造を委託したものに該当するというべきである。
6 以上によれば、原告は、物品税法七条一項の規定により本件大型モーターボートの製造者とみなされ、同法三条二項の規定により本件大型モーターボートに係る物品税の納税義務者にあたるから、本件処分には原告が主張する納税義務者を誤つた違法は認められず、右処分は、適法である。
三 よつて、原告の本訴請求は、いずれも理由がないから、これを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 小川正澄 三宅純一 桐ケ谷敬三)